解決した医療過誤事例

ここで過去に解決した事例をご紹介致します。
胃カメラの際に投与された酢酸
事例の概要
Aさんは人間ドックで胃の異常を指摘され、B病院にて、6月29日上部消化管内視鏡(いわゆる胃カメラ)を施行された。担当医は胃の病変部を明確にするために内視鏡観察時に胃内に酢酸を散布した。通常1%の酢酸を散布するところ、誤って原液を散布した。Aさんは散布直後から腹部の激痛が生じベッド上でのたうちまわった。しかし担当医は原因がわからず、原因が明らかになるまでに1時間を要した(病院がC中毒センターに問い合わせたところ、散布液が原液ではないかというアドバイスがあり原因が明らかになった)。この間、酢酸は十二指腸、空腸へと流れ、酸による腸管壁のびらんや潰瘍を生じ、(酸によるやけどのようなもの)腹部の激痛が生じた。
 Aさんは、6月29日から9月2日まで、小腸の病変部の安静のため口からの食事を中止され、点滴中心の治療を受けた。小腸のびらんや潰瘍は治癒傾向に向かったが、瘢痕により小腸の狭窄が多発性に生じた。このため通過障害が起こり、食直後に嘔気、嘔吐、腹痛が生じ十分に口から食事を摂ることができなくなってしまった。
 9月3日から10月6日まで酢酸による小腸狭窄治療のためC大学病院に転院した。内視鏡を用い、小腸の狭窄部に膨らんでいない風船を挿入し、これを膨らませて狭窄した小腸を拡張させた(これを内視鏡的バルーン拡張術という)。この操作を繰り返し直径10㎜から12㎜まで小腸径を拡張した。
 その後も入退院を3回繰り返したが、最終的に口から食事を摂れるようになったが、食後の違和感は継続した。

患者側の主張
通常1%の酢酸を散布するところ、誤って酢酸の原液を胃内に散布し、小腸にびらん・潰瘍を生じさせた。治癒の過程で、一部は狭窄を生じ非狭窄部でも粘膜に強い瘢痕性の変化を伴って治癒した。狭窄部は内視鏡的にバルーンで拡張され、狭窄は改善された。しかし非狭窄部の食後の調節機構は障害されたまま継続している。このため、少し急いで食事をすると心窩部に違和感が生じることや食後に不快におなかがキューキューと鳴ることがいまも継続している。以上の後遺障害は13級-11「胸腹部臓器の機能に障害を残すもの」に該当し労働能力に支障をきたすことは明らかである。
 
病院側の主張
病院側の主張
過失に関して反論はなく損害額の算定が争点となった。
 病院側としては、狭窄部はバルーンで拡張されており、小腸造影でも狭窄や通過障害は認められない。このため明らかな後遺障害は認めることができない。
結論
ほぼ、患者側の主張が認められ、解決金11073万4624円で合意が得られた。
感想
胃の中では、胃酸(塩酸)が胃粘膜の壁細胞から分泌され、強い酸性の環境(pH1~2までの強酸性となる)となっている。これは、①たんぱく質を消化するため消化酵素であるペプシンを働かすため、酸性の環境が必要であること②小腸に細菌が入り込まないための胃でのバリヤーの働き、のためである。この酸から身を守るために、胃の粘膜の表面の細胞は自らアルカリ性の液体(重炭酸イオン)を胃内腔に分泌し、自らで酸を中和して酸が障害されるのを防ぐ防御機構を備えている。この防御機構が破綻した病気が消化性潰瘍(胃潰瘍や十二指腸潰瘍)である。
 本例では、胃の中に酢酸の原液が散布された。胃の内腔の表面の細胞は前述の防御機構のため酸により障害されなかったが、小腸の細胞はこのような防御機構が無いため酸に弱く、細胞が死んで、びらんや潰瘍が生じてしまった。