解決した医療過誤事例

ここで過去に解決した事例をご紹介致します。
MRI撮影時の呼吸管理の過誤の例
事例の概要
2010年5月10日Yさんは、T病院で、胸部大動脈瘤に対し、弓部大動脈人工血管置換術を施行された。翌11日Yさんは、術後麻酔から覚め意識レベルが改善すると、左半身麻痺を訴えた。主治医は脳梗塞を疑い、緊急のMRI検査の施行を決定した。 主治医は、気管内挿管を施行されているYさんに対して、アンビューバッグを押しながらMRI室まで移動した。MRI室 では、金属を含む器具は持ち込めないため、主治医はアンビューバッグに延長チューブを接続して、MRI室の外からアンビューバッグを押しYさんの呼吸の補助を行った。ところが延長チューブの接続を間違えたため、アンビューバッグを押してもYさんは肺での空気交換が十分に行えなくなった。そのためYさんの血液の素濃度は低くなり二酸化炭素濃度は増加した。Yさんは苦しがったが、主治医は単に不穏になっているだけだと判断し鎮静剤を投与した。このためYさんは呼吸循環機能が抑制され心肺停止状態となった。蘇生処置によって心拍は再開したもののYさんには低酸素性脳症による遷延性意識障害という後遺障害が残った。

患者側の主張
延長チューブの誤接続によって肺胞低換気(肺の中の空気の交換が十分に行えないこと)が生じ、このため低酸素性脳症が起こり遷延性意識障害となった。
病院側の主張
人工血管置換術後に脳梗塞が生じて呼吸中枢が障害され呼吸が停止した。(血管の中を操作する手術のため、血液の塊ができやすくこれが脳の血管に詰まれば脳梗塞となる。従ってこの手術では高い頻度で脳梗塞が生じる) 交渉の過程で患者側の主張を病院側が認め、訴訟前に示談が成立した。(3296万3894円)
トピックス:MRI室での呼吸の補助
自分の力で十分に呼吸ができない患者に対し、MRI画像を撮影する場合、どのようにして呼吸の補助を行うかは大きな問題である。MRIは磁気を用いて画像化するため金属をMRI室内に持ち込むことができない。金属を含まない人工呼吸器は極めて高価であるため、多くの病院では本件の様に延長チューブを用いてMRI室外から、手でバッグを押して患者の呼吸の補助をしているのが実情である。本件では若い研修医がいきなりMRI室で延長チューブを放射線技師から渡されて延長チューブの接続を誤りYさんに低酸素脳症を生じさせた。研修医個人の問題でなく病院のシステム(いかに間違いが起こりにくいシステムをあらかじめ構築するか)の問題と考えられる。
ふりかえって 本件に関して、T病院は、患者側からのカルテ等の開示請求に対して真摯に対応し、院内調査の結果についても患者側に対して書面を交付して適切に説明を行った。 これら、医療事故が起こった場合のT病院の対応については、評価に値すると思う。今後、このような対応をする病院が少しでも増えていけば、患者側も余計な苦しみを味わなくて済むと思った。